RUIN

さよなら、月の

無知の楽園

 小さい時とても楽しみにしていたことがありました。PTAです。

 

 まぁ当時はその名前すらも知りませんでした。ただ、親に連れられ夜の学校へ向かうだけ。

 

 この場合の「夜」 は幼い私にとっては確かに夜であり、真っ暗で1人では恐ろしいものです。特に私なんて、両親の方針で小学4年生まで7:30の就寝が徹底されていましたから、6:00より後の外の世界は知りませんでしたし、夕方なんて3:00頃から始まっていました。ですからそれが7時であれば、例え誰がなんと言おうと、夜でした。

 

 私が幼稚園に入ったのは年中から。他の人より1年少なく、あの楽しい時を過ごせなかったのかとショックを受けた事を覚えています。

 PTAについて詳しくは知りませんのでそもそも1度も体験した事も無い人も勿論いるのでしょう。と、いうかあれは共働きの両親がPTAに来る際、お子さんも連れてくればいいですよという事だったのだと、今だから分かります。(私の住んでいる地域は共働き率が全国トップレベルです)

 

 夜の学校で大人達が秘密の密会をしている間、大人が構ってくれない代わりに幼稚園のその他の全てを貸し出された気がしました。

 今考えれば1人くらい見張りの人がいなくて良かったのか?と思います。もう記憶があやふやなのでもしかしたら、いたかも知れません。でもそれはその人が私達の遊びを、悪事を止める事が無かったからでしょう。

 

 夜に会えたのはいつも遊ぶ子ではありません。あの子達は何故かいつもいない、(PTAですからね)夜の幼稚園には。1度も喋ったことが無い。でもその子達は一緒に冒険しようか、と私に話しかけてくれる。私にはそれが本当に嬉しかった。私にも出来る冒険があるのです。暗い幼稚園を、子供達だけで探検出来るのです。少しくらい怖くても、みんながいれば平気です。夜の幼稚園に集合する度、(PTAの度、という事ですね)私達の絆は深まり、暗い幼稚園の謎がとけていきます。けれど何故か、次の日幼稚園に行っても遊ぶのはその子達ではありませんでしたし、声をかけることすらありませんでした。そしてそれを不思議がる子も、もちろん私を含めて誰もいませんでした。

 

 他には、明るい部屋で大人が話している間、私達は暗い部屋へと赴き、未完成な頭で考えられる限りの悪戯をしました。(いつになっても完成するものではないでしょうが)完成したパズルを壊してしまうのも、人のノートに落書きをするのも、片付けられた玩具を全て出してしまうのも。翌朝になれば全て元通りになっていると信じて。この時間が、本当に夢のような時間だったから。(眠かったんでしょうね)

幼稚園の先生方には本当に感謝と申し訳ない気持ちでいっぱいです。私達が帰った後に片付けてくれていたんですね。

 

楽しかった時間が1時間以上続くことはほとんどありませんでした。それぞれの親たちがごねる私達を無理矢理車に乗せ、家に帰るのです。

まだ遊びたい、と誰かが言うのに次々に賛同する子供たちを見て親たちは何と思ったのでしょう。PTAなんてもう二度とごめんだ、でしょうか。

 

 

 

何にしても私達が無知であったから、関係ない者だったから楽園に思えていたんだと考えると、記憶の端々にあるものが霞んでいくような思いがあります。